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思い出

 母校の大学へ行ってみた。恩師の退官祝賀会までにはまだ時間があった。
 穏やかな昼下がりだった。久し振りに降り立った駅前は学生時代とはすっかり変わっていた。よく行った喫茶店がなくなっている。大学へ続く道は昔の面影はあるが見慣れない建物が増えた。もともと何があった場所なのか、記憶も曖昧だ。少々騒がしくなっているが、この道は人もまばらで、そこに流れる時間、空気は学生時代のように穏やかなものだった。
 授業がない時でも大学に行き、時間を過ごした。友人や先生との交流や、専門書がそろった図書館という大学という空間を私は気に入っていた。小さな短期大学で学生が200人くらいしかいない。学舎はいつも閑散とし緩やかな時間が流れていた。グラウンドには草が生え、学生自治会が企画した体育大会では準備のため草引きから始めなければならなかった。学園祭でも客は少なく、模擬店をしても客の中心はスタッフ通しという状態だった。学園祭の準備のため学内の人口は昼間より夜間が多いということもよくあった。
 2年間という穏やかな私の時間・・・。
 あれから20年。今歩くこの道を当時は何度も歩いた。クラスのコンパの後、友人とこの道を歩いて学舎へ戻る帰り道。もう卒業かと思いつつ歩いたこの道。当時とは似ているがどこか違うこの街並みの中に、友人とすごす若い自分の姿を見た。随分と遠いところに来たのだなと私は思い、若い自分を暖かく見守った。そんな幻影と共に、学舎の前に私はいた。若い私の幻影は友人と楽しそうに話ながら門をくぐり、学舎に消えた。しかし私は門の前で立ちつくしていた。
 大学は10年前に廃学となり、門は閉じられ立入禁止の看板があった。しかし、学舎、体育館すべてが当時のままだ。中庭の植木は管理されているのか整っていたが見覚えのある姿より大きくなっていた。あの頃より20年分古びた学舎は、私の若き日の思い出を詰め込んだまま夢を見続けているようだった。 
 私は学舎を目に焼き付けるように見つめた。次に来た時にはまた会う事ができるだろうか。
 さあ。時間だ。恩師の退官を祝いに行こう。懐かしい顔に会いに行こう。

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