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「風立ちぬ」見てきました。

ジブリの映画「風立ちぬ」を見てきました。ラジオでこの映画について感想を言っていて、夢のシーンで冷めるとか、子供が楽しめるものにして欲しいとか、ユーミンの歌が最後にしか流れないとか色々マイナス批評がされていました。
そうなのかと思いつつ、見に行きました。

しかし、実際はとてもよかったです。実在の人物を取り上げているのですが、宮崎アニメのファンタジーの手法を取り入れているため、「堀越二郎」や「零戦」や「ユーミンファン」や、いわゆる「子供向けジブリ作品」を期待した人には不評であったかもしれません。

私にとっては、とても良い作品でした。もう一度見てもいいと思います。

静かに淡々と、昭和の映像を見せていきます。緑の多い風景、舗装されていない道路、都会の中の牛や馬。どれもみな、江戸の雰囲気を残す戦前の風景です。
コンピュータなどない時代です。計算尺が随所に出てきます。「計算尺」など私の世代でも、もう学校で習うこともありませんでした。まして、生まれたときからPCがある世代なら、あの計算尺をどのように見るのでしょうか。

作品中では実際の堀越二郎ではなく同時代を生きた文学者堀辰雄の小説をミックスした登場人物となっているため、違和感を感じる方もおられるのでしょう。

戦争賛美という批評もあるようですが、戦争中特に映画で描かれている第二次世界大戦前夜という時代の庶民の認識は戦争はどこか遠くで起こっているものでした。
不穏な空気が流れはじめる頃、ドイツへ視察に行った時も、ゲシュタポに追われる若者が描かれています。堀越もまた日本で「特高」に狙われるというシーンがありました。理不尽な国の権力が国民の側から少しだけ表現されていました。戦況が悪化するとともに、国民生活に影響が現れてきたのです。

人々は、戦争を意識の遠い所に感じながらも、私達と同じように自分の仕事と生活に精一杯の暮らしをしていたのです。当時の技術者も同じ。飛行機を作るのが仕事なら自分の持てる力を傾けていたのです。
ただ、エリートを描いているため、庶民の貧困や世相はあまり伝わるものはありませんでした。

軍国教育を受けていない戦前の人には建前はどうであれ、戦中の人よりも戦争を冷静に見る目があったと思います。
貧乏な国が飢えた子供達がいなくなるくらいの金を使って飛行機をほしがっているという矛盾を二郎の先輩は指摘してます。
零戦の試作機を作る際の技術者同士の討論のシーンでも、「こうすれば、海軍の要求以上の速度が出せる」というような事を言いつつ「ただ、重くなりすぎる。機銃を載せなければ良いんだけど」とさりげなく、兵器を作ろうとしているのではないというシーンを織り込んでいます。しかし、目指した物はなんであれ結果は兵器。ラストシーンでは破滅に導き、出撃した飛行機は帰ってこなかったと語っています。

しかし、これが現実なのでしょう。戦争というものは国民が気がつかぬ間に忍び寄ってきて、生活そのものが戦争に結びついていくのです。今の世の中でさえ、万が一の時には国民が戦争に協力することを求める法律が存在しています
様々な職種で戦争のバックアップを行い、国民はその指示に従うことが求められているのです。当時の戦時体制下ならなおさらです。

この物語は、戦時体制の当時の社会の中で一生懸命生きる技術者二郎と、菜穂子の恋物語が中心に置かれています。とても切ない物語です。
菜穂子と二郎の再開のシーンは、まるでモネの「日傘の女」を彷彿とされる美しいシーンでした。そんな美しい出会いと対照的な厳しい現実。そして、悲しい結末。でもその全ては語られていません。

物語の最後に流れる「ひこうき雲」。映画で語られなかった菜穂子を物語を、この歌が語っているのだと私は思いました。この歌はもともと自殺した少女を歌っているのですが、改めて詩を見ると、飛行機に情熱を傾ける二郎を憧れつつ短い生涯をかけた菜穂子の姿と重なってくるのです。

追伸「煙草の事」
ネットの批評を見ていると喫煙シーンが多いとクレームがあったとのこと。私は喫煙しませんが、問題あるとも思えませんでした。昭和初期を描く中で違和感など感じませんでした。

昭和という時代、あの光景は普通です。煙草がないと不自然です。昭和の末期でさえ職場はもとより電車内ですら煙で白く煙っていました。平成に入っても大学内で学生は煙草を当たり前のように吸っていましたし、駅のホームで普通に煙草が吸われていました。

煙草が問題ならば、もっと制限する物があるはずです。子供向けアニメや映画に登場する暴力シーンです。敵を倒すといって刃物を振り回して斬りかかる。銃を撃つ。人を殺す。真似をするという点から言えば、こんなシーンのほうが煙草よりも問題があると思います。

(関連:最近のアニメ考

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コメント

テレビ放映を待って
見ることになるかなあ(苦笑)

たしか、
アメリカ軍の戦闘機は
防弾装備がきちんとしていたし、
墜落や不時着をした機の
パイロットを救助するシステムも
整えられていたと読んだ記憶があります。

防御の鉄板を薄くして
機体を軽くすれば
性能は上がります。
零戦って、
そういうからくり「も」
使って作られた
名機じゃないんでしょうか?


天の時も地の利も人の和に及ばないのなら、
まず人(国民)を大切にするところから
始めなければならないはずです。

一銭五厘でいくらでも代わりが来ると
いうような考えでいるから
負けちゃうんです。
(勝った方が良かったとも
 思いませんが。)
たしか、ミッドウェーで失われた
熟練パイロットの補充は
結局は、かなわなかったのでは
なかったですか。

それから、追伸の喫煙シーンのこと、
「はだしのゲン」と
根っこでつながっている様な気がします。

喫煙シーンをきっかけに
親が喫煙の弊害を
きちんと教えてやればいいのです。

眠っている子を起こす
いい機会だと思います。

投稿: うさぎさん | 2013/08/23 22:30

うさぎさん。コメントありがとうございます。
まさにそうなのです。飛行機だけに着目すると見誤るものがあると思います。
アメリカの飛行機に対応するには、軽量化をしなければ対応できなかったというのが日本の技術力の限界だったのだと思います。
確かに、零戦は優秀な飛行機だったかもしれないけれど、軍や当時の戦争指導者の人命に対する考えが反映された飛行機でもあるのです。

映画の中に、その最先端の飛行機を工場から飛行場へ牛に引かせて運んでいました。これは、事実だったそうです。当時の道路事情から車や馬では揺れて壊れる恐れがあるということで牛だったそうです。飛行機という目先の兵器や戦争だけに関心があり、インフラ整備など眼中になかったという当時の日本の象徴でもあります。

宮崎駿は、だからこそ、映画の中で日本中で飢えている子供が多くいるのに、全ての子供の飢えを満たせる位の金をかけて飛行機をほしがる。矛盾している。」と登場人物に言わせています。最先端の飛行機を作ろうとしているのに、インフラ整備には関心がなく、のんびりと牛に引かせて飛行場まで運ぶ。これも矛盾です。いや、もしかしたら国力の限界であったのかもしれません。近代戦争を戦う体制では無かったのでしょう。これは、精神論ばかりで兵站に重き置かず現地調達で作戦を拡大させたことにもつうじます。

特攻隊もそうです。当時の軍隊が喧伝した勇ましい部分だけが強調されますが、当時の証言などを聞いていると、半強制であったとか、優秀なパイロットが爆弾を命中させれば戻っても良いかと問うと、上官は「死んでこい」と命令したなど、美談が物語りでしかないということがわかります。また、終戦直前になると、まともな飛行機が残ってなくて、戦地まで飛べず不時着した者が何人もいるといいます。そういうパイロットは隔離されて不名誉と共に戸籍上戦死扱いされたということです。これはNHK特集でも以前放送されていましたし、大佛次郎の「終戦日記」にも記されていました。

また、水木しげるの自伝的な漫画では、突撃で生き残った水木しげる達に、本部からきた上官が死んでこいと再度の突撃を命じるシーンがあります。

要するに、当時の軍隊の上層部は現場の状況には目をつむり、体裁やメンツだけを重んじていたのではないかと感じる節が多くあります。だから悲惨な作戦による死者やその家族を慰めるため、また、国民を扇動するために美談を作るのでしょう。現在でもイラク戦争などで美談は生まれそして戦地では軍隊による虐待などが繰り返される。これが戦争なのだと思います。
当時の日本は、戦争後のビジョンが無いまま、というより無いからこそどんどんと戦争のエリアを拡大し自滅したのだと思います。それが戦うための組織が力を持った結果なのでしょう。

それから、「眠っている子を起こす」という考え方。同感です。教育の放棄というのでしょうか。怖がるから目が届かないところに置く、真似すると困るからクレームをつける。でもその一方で、子供達が危険に巻き込まれる恐れがあったり、誤った情報に接する恐れのあるインターネットには無関心です。
通勤電車で毎朝「あいつを殺したら金が手に入る」などいう会話を平然とする小学生がいます。彼女らが熱中する”殺人”を繰り返すゲームについてクレームをつけたという話は聞きません。こっちの方が煙草より心配です。

投稿: 幸雲 | 2013/08/24 00:25

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