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「進撃の巨人」に思う

噂に聞いていた、アニメ「進撃の巨人」をウェブの動画サイトで20話まで無料公開していたので見てみました。原作の漫画は読んでいません。
話題になっていたのは知っていたのですが、巨人の生々しい絵や結構スプラッタな場面が多いため、敬遠をしていました。でも、ここまで話題になっているのなら見てみようと思いました。実際、最近にない面白い物語でした。ちょっと引いた視点で理屈っぽく感想を述べます。(理屈抜きに面白ければよい人は以下は読まないでください。)
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この物語は見る者に登場人物の信頼感、緊張感、不安感、悲壮感、喪失感、無力感がひしひしと伝わってきます。これは、他のアニメにはないものでした。もちろん、巨人に人間が食われるというスプラッタな場面が多いと言うこともあります。昔、「北斗の拳」では光でごまかしていたようなシーンも、配慮はしていますが、当時よりもごまかしが少ないようにも感じます。

巨人対人類という戦いに挑む兵士を描いているため、多くの人が死にます。親友が死ぬシーンも、心に迫ってくるものがあります。でも、これは、よく考えると、戦争物ではよくあるシーンなのです。「ガンダム」「宇宙戦艦ヤマト」の戦闘シーンでも大量の人が死んでいるのです。でも、この悲壮感は伝わってきません。

この違いは何かと考えると、「ガンダム」「宇宙戦艦ヤマト」ではロボットや宇宙船という「人」ではないものどおしの戦闘に置き換えられ、その中にいる人を隠しているからだということに思い至ります。だからいくら敵のロボットを爆発させても痛みが心に伝わらないのです。

一方、「進撃の巨人」は生々しいのです。敵も生身の巨人。人類は移動するための道具は持っていますが、基本的に巨人に対する武器は両手に持った刀です。
生身対生身の白兵戦なのです。原初的な戦闘と言えるのかも知れません。巨人の弱点は、うなじの部分のみ。他は切っても再生するという最悪の存在です。人類が巨人に斬りかかる時は死の覚悟がないと立ち向かえません。そんなぎりぎりの状況での心理。次々と友人の死。通信手段も狼煙です。他の状況が見えない不安。死の場面は爆発ではなくスプラッタです。仲間が巨人に食われるという衝撃的な事実。緊迫する条件が満載の物語なのです。

さっきまで談笑していた友人の死。これは、この物語に限ったことでは無く、実際の戦争の体験談に出てくる話です。近くにいた友人に爆弾が落ち、その人の肉が飛び散るなどです。
「進撃の巨人」の戦闘はまさに「人の死」と隣り合わせであるという本質をリアルに描いていると私は思います。

また、随所に現実の組織の腐敗した部分などのエピソードが織り交ぜられています。物語の伏線だとは思いますが「巨人が出現する前は人間同士で殺し合いをしていた。人類の共通の敵が現れたとき団結できる」というような事が語られています。これも真実でしょう。国同士の戦争をするときも国の指導者は外に敵を作ります。他国を持ち出すまでもなく、日本ですら「鬼畜米英」と国民を鼓舞していたのです。

また、命のやりとりをしている戦場とは遠く離れた中央では、私利私欲で決定が遅く、その間に多くの兵士が死んでいるということも、何ならリアルです。どこかで聞いたことのある話です。

少し話がそれました。

巨人の秘密を探るという指命をもつ部隊の中で、一つの駒として命をかけて探索する主人公達の物語が「進撃の巨人」の物語です。生身どおしの血しぶきの上がる戦いというのは目を背けたくもあるのですが、だからこそ伝わってくるものも多くあると思って見ています。

逆に、兵器どうしの戦闘物では感じない、人の死が希薄さは気を付けないと怖いです。現在のアメリカの無人戦闘機などはまるでゲームです。生身の人を見ることがないのです。殺人の壁がものすごく低くなる。これは日常に潜む人間の感覚の問題だと思います。戦争に限らず日常にも潜む問題だとも思います。

追伸
以上、大人の視点で感じた点ですが、世界観等、物語自体が上手く作られているのも魅力です。謎解きや、魅力的な登場人物など、漫画としても常套の作りをしています。また、通信手段もなく直接話をするという状況から人間関係が濃密なため、見ている方も感情移入もしやすいのです。通信機器が発達し現在の人間関係が希薄になった現実があるから憧れがあるのかもしれません。

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コメント

こんにちは!ブログにコメント有難うございました\(^^)/

こんなに「進撃の巨人」についての解釈で納得したものはありませんでした!と言うぐらい素晴らしい記事です。

この解釈を見させていただいて、もう一度アニメを見るとまた違った角度から見ることができそうです!


投稿: ゆぅ↑ | 2013/10/01 23:58

ゆぅ↑さん。コメントありがとうございます。
主人公達に感情移入して楽しむ人が読むと面白くない感想だろうなと思って書いていました。ゆう↑さんのようなコメントを頂きうれしく思います。
面白い物語は、キャラクター達の良さもあるとは思いますが、その背景もとてもきっちりと作っているものだと思います。突飛もない設定ですが、そこに登場する設定は現実のものを投影し、そこが見ている者が自分を投影したりして共感するのです。(軍事裁判にかけられる前後など)結構よくできていると思います。
また、通信手段が狼煙というのも上手い設定です。携帯電話があれば成り立たない話がたくさんあります。(巨大樹の森での話など)
視点を変えれば、物語が色々見えてくるというのは小説でのアニメでも良い物語だと私は思います。

投稿: 幸雲 | 2013/10/05 11:36

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