« なぜ時代劇は滅びるのか | トップページ | 四つ目編み花籠完成「夕凪」 »

「蜩の記」をみました。

このところ、映画をよく見ます。この秋は気になる映画がたくさんありました。
その中で、時代劇を2本みました。「石榴坂の仇討ち」と「蜩の記」です。

どちらも、藩命・・・今で言うところの上司の命令は絶対の時代。片方は自分のミスを切腹で償うことを許されず、明治の世になっても武士を捨てることができず、命をかけて主君の敵を探す男の苦悩の物語。そして、もう一つは、藩のトラブルを一身に背負い、全てを飲み込み主君のために切腹を受け入れる武士の物語でした。

どちらも、良い作品でした。でも、甲乙をつけるとすると、私は「蜩の記」を選びます。
「蜩の記」は、切腹に10年の猶予を与え藩の歴史書を作成するように申し渡された武士、戸田秋谷(しゅうこく)の幽閉先の村に監視役として、若い武士、壇野庄三郎野が派遣されるところから物語が始まります。壇野が派遣された時、残された猶予は3年でした。

物語は淡々と、日々の暮らしがつづられていきますが、その中に幽閉されるに至った経緯などが壇野の目を通して観客も知ることになるのです。
一日々々を丁寧に誠実に生きる秋谷の姿、村の人に接する姿をみて、壇野はその生きに感銘を受けていきます。

農民に厳しく取り立てる役人。中央の考えとは別に末端で行われる酷い行い。これも世の常なのでしょう。武士の精神を崇高なものとする風潮もありますが、そんな役人たちも武士なのです。武士にもいろいろとあって、誠実に生きる秋谷は役人に対して遠回しに意見するのです。

壇野は当初、犯罪人と対峙するように秋谷の屋敷を訪れます。しかし、その人柄に魅せられていくのです。毎朝、畑を耕す姿を見て、武士なのでそのようなことはしないと言っていたが、影響を受けやがて一緒に鍬をふるうようになっていきます。

そして、無実の罪であることを知り助けようとする。

やがて家老の不正が暴かれます。しかし、今は亡き主君のために秋谷はそれをも飲み込みます。そして秋谷の言葉で家老も民のためへの政治に目を覚るのです。家老は秋谷の切腹を取り消すように動くことも可能でしたが、そうしませんでした。だから、家老が悪い奴だというわけでもありません、家老の人柄はそれほど悪くはないのです。屋敷に乗り込んだ秋谷の息子や壇野を厳しく罰することもできたはずですが、そうしないのです。全てはお役目での立場上の措置であるのでしょう。そういう時代だったのだと思います。

一見、武士の生き様を淡々と描いた作品のように見えます。また、理不尽な死を余儀なく受け入れざるを得ない時代の報われない話とも受け止める人がいるかもしれません。しかし、後半部分での秋谷の言葉「死ぬことを自分の事として生きてきた」に胸をつかれる思いがしました。ここに、この映画のメッセージがあったのです。

10年後に切腹という定められた生を、日々大切に過ごし、その日を迎える。しかも、藩のためとはいえ無実の罪による切腹。その過酷な運命は確か現在の私たちからすれば理不尽な死です。

しかし、よく考えれば、私たちも、やがては死ぬ運命にあるのです。それは逃れることのできぬ運命です。秋谷は10年後には死ぬという覚悟を持って生活を送っていました。息子の元服と、娘が嫁ぐのを見届け、妻に感謝の言葉を残し時代がつながることを信じて家を後にしました。一方私たちはどうでしょう。多くの人は自分の命は永遠にあるかのように日々を漫然と過ごしているのではないでしょうか。この映画は、そんな私たちへの問いかけであると感じました。

壇野は秋谷に「よい修行となりました」と感謝を述べます。私たちは壇野の目を通じて秋谷の生き様から確かに学びます。言葉で何かを語ることはありませんが、本当はいつかやってくる死に向き合い、どう生きるべきかを背中で教えているのです。

私たち全ては秋谷と同じ運命にあるのです。しかし、私たちは死は随分と先にあると思い込んでいるため、日々漫然と生きています。その生き方を問われているように思いました。もしかしたら、現在の日本人すべてに問うているのかもしれません。

さて、この映画は物語はさることながら、武士の立ち居振る舞いがとてもきれいでした。秋谷役の役所広司はもう何も語ることがありませんが、壇野役の岡田准一には今後の時代劇での活躍を期待するべきものがありました。居合いの稽古をするシーンがありましたが、その姿の美しさは見事でした。真田広之を思わせる存在感がありました。
淡々と進む物語に、退屈する人もいるかもしれませんが、とてもいい映画だと私は思いました。

|

« なぜ時代劇は滅びるのか | トップページ | 四つ目編み花籠完成「夕凪」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/41440/60559705

この記事へのトラックバック一覧です: 「蜩の記」をみました。 :

« なぜ時代劇は滅びるのか | トップページ | 四つ目編み花籠完成「夕凪」 »