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「この世界の片隅に」見ました。

以前から、映画館の予告で見ていて、一度見たいと思っていた映画が、新年の2週間だけの公開をしていましたので、時間を作ってみてきました。

この映画は、広島の原爆投下の前後を淡々と一庶民の生活を描いた漫画、のちに映画化された「夕凪の街 桜の国」の作者が描いた同名の漫画をアニメ化したものです。
「夕凪の街 桜の国」は見ていないのですが、話題になっていたことは知っていましたので、「この世界の片隅に」は見ておきたいなと思っていました。

正直なところ、私は子供のころから原爆についての話を聞くにつけ恐ろしく、一瞬で街や人を破壊し、人を人の形では無いものに変え、そして生き延びたものですら、悲惨な死を招くという放射能の得体のしれない恐ろしさを感じ、できれば避けたいという思いが強くありました。

今でもその思いが強くあります。しかし、一方に目を背けてはいけない事実というものもあることを、年を経て知っています。そして、近年のきな臭い世界や戦争への道へ舵を切るように導く勢力や、書店にならぶ現実に目をつぶり自己正当化する歴史観の、まるで終戦直前の軍部のような主張をする本が書店に並んでいることに危険な予兆を感じているのです。

私たちが知るべき歴史、本当の歴史とは戦争の最前線にはいかず国民を扇動するために軍部が美化し正当化した歴史ではなく、庶民がどのように生活し、どのように戦争が生活の中に忍び込んできたのかいう歴史を自分の生活に重ねて感じることが大切だと考えています。

この物語は、戦争中、広島に原爆が投下される少し前から物語が始まり終戦後の復興が始まる少し前までを時代背景としています。広島で育ち、呉に嫁いだ「すず」という主人公を通して、庶民から見た戦争というものを描いているのです。

絵が好きな すず は、ふわっとした性格の少女として育ち18歳の年、親の言うままに結婚し、毎日懸命に生活するための仕事に追われて生活していました。戦争が激しくなろうと、物資が不足して食べるものが不足してもなお、工夫を凝らし家族の生活のために頑張っていました。その姿は、現在の私たちの思いとは何ら違うものはないのです。街では映画館だってあったし笑いもしたし、憲兵などの監視の中、表と裏とを使い分けながら、(これは、様々な人の戦中の日記などでも同じようなことが語られています。)

その生活にの中に、爆弾が空から降りだすのです。米軍機からの機銃掃射で命からがら逃げるそんな生活が始まる。戦争の状況などすずにはそんな重要なことではなく、家族の生活、今日の食べるものを確保することを繰り返すそんな日常の中に人の死や悲劇が当たり前のように混じりだしていくのです。
(私の住む地域でも戦時中にグラマンが低空を飛び機銃掃射をしたとか、機関車を守るため、客車を引いたまま機関車だけをトンネルに隠したという話を聞きました。)

そして、悲劇はすずをも襲います。すずと義姉の娘が一緒にいたところを不発弾が爆発するのです。一瞬の遅れで義姉の娘と、絵を描き続けてきた右手をすずは失います。
そして、実家に帰ることを決意したところで、義姉との和解。そこに襲う原爆の閃光。立ち上るキノコ雲。

日常と思われていたものが遠くなり非日常が日常と置き換わる。戦争とはまさにそんな形で庶民の中に入ってくるのです。失ったすずの右手を通してそんなことをこの物語は雄弁に訴えてきます。
ふわっとしたタッチの絵で、すずの生活を淡々と描きながら、戦争の残酷さを語っているそんな風に私には映りました。

原作の漫画からは多くエピソードが端折られている感じがしました。おそらく原作ではもっと多くの経験をすずはしていることでしょう。エンディングのエンドロールの中で補足するような物語が無くしたはずのすずの右手が描き出していました。

過去の物語ではなく、これから先に起こりうることをことを物語っているのではないか。映画を見終わって、物語から心を引き戻すのに時間がかかるそんな感じがしました。


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コメント

幸雲さん、こんにちは。
ここ2か月ばかりブログからすっかり遠ざかっていて、
こちらを訪問するのも久しぶりになってしまいました。
ひとつ前の記事へのコメントで失礼します。
幸雲さんも「この世界の片隅に」をご覧になられたのですね。
私も一度鑑賞した後、原作の漫画を買って読んで、
その後もう一度映画館へと足を運びました。
本当に素晴らしい映画でしたね!
その気持ちをうまく表せないけれど、少しでも言葉にしたくて
私も先日ブログに書き綴りました。
映画を見た後に知りましたが、原作から削られた大きなエピソードは、
時間の関係だけではなくて、監督の「すずさん」を思う
深い気持ちもあったようです。

投稿: hanano | 2017/02/05 11:59

hananoさん。コメントありがとうございます。

いい映画でした。淡々と描いているのですが、たくさんの事を語りかけてくる。そんな映画でした。名作だと思います。

原作も読まれたんですね。私は立ち読みの流し読みでした。省略したことを気づかないように辻褄を合わせるのではなく、ほのめかしたまま、そのことについては後に語られない。小説でいうなら、行間を読むという感じですね。そこにドラマを感じさせる。奥が深いなぁと思いました。

投稿: 幸雲 | 2017/02/07 23:04

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